小谷祐介さん


地方への移住を考えたきっかけを教えてください。

きっかけとなった出来事は2つあります。1つ目は自分自身の転職です。「田舎暮らしに憧れていた」「地方でゆっくり暮らしたい」という思いで移住したのではなく、自分のやりたい仕事ができる場所がたまたま島根県で、転職する=島根県へ移住する、という自然の流れになりました。
とはいえ全く地方への移住に興味がなかったわけではありません。新型コロナウイルスが流行し始めたころに妻と「東京も10年ほど住んで、少し飽きたよね」という話はしていました。東京でしか得られないものもありましたが、もう十分かな、と。それが2つ目のきっかけです。新幹線や特急電車を使えば都内にも行きやすく、でもゆっくりできる地域、例えば群馬県や長野県で暮らすのもいいね、なんて冗談っぽく妻と話しながら地方の物件を探したりしていました。

 

雲南市への移住の決め手は何でしたか?

僕たちの場合、妻のピアニストという職業上グランドピアノが置けること、猫の飼育が可能なこと、この2つが住まい探しの譲れない条件でした。職場のある松江市で探していましたが、なかなか希望に合う物件と出会うことができず。松江市以外にも範囲を広げていったところ、オンラインイベントで出会った雲南市は空き家バンクの情報が豊富で、ここなら住まいが見つかりそうだと感じました。
夫婦一緒に暮らすことが大前提としてあったので、妻がここでは暮らせないと思うようであれば転職自体を断るつもりでいました。1泊2日の『雲南つながる体験』で雲南市を初めて訪れた日、想像以上に田舎で驚いたのか妻は会話をしてくれないほど不機嫌でしたが、2日目に定住企画員や移住者の先輩、空き家所有者の親族の方、不動産業者の方と出会い、移住に対して前向きになってくれました。僕たち夫婦にとって大きな決め手になったのは雲南市の「人」との出会いでした。

 

仕事はどうやって決められましたか?

実は元々転職する気で動いていたわけではなかったです。もっと言うと、移住を伴う転職は全く考えていませんでした。教育関係の仕事を長年やってきて、もう少し広い枠組みで取り組んでみたいと思い、情報収集し始めたタイミングで現職からスカウトがありました。当初は業務委託の週2でどうか、リモートでどうか、という話でしたが、面接を重ねるにつれ「いつ島根県に移住できる?」なんて話になり。移住は考えていなかった反面、業務にがっつり関わってほしいという評価をもらったという感覚もあったので、一度職場のある松江市を訪れました。地元近くのまちの雰囲気に近く、暮らすイメージが湧いたこともあって転職や移住を決断できました。

 

住まいはどうやって決められましたか?

定住企画員が空き家のオンライン内覧を提案してくれて、空き家バンクから数件ピックアップしましたが、定住企画員から「ここも見てほしい」と勧められた物件が現在住んでいる家です。オンラインで見てみると、他の物件に比べて今住んでいる家は修繕する箇所も少なく、職場との距離感も許容範囲内だったので、正直僕はオンライン内覧の時点でこの物件にする!と決めていました。実際に物件を見ても状態が良くて安心しました。家の裏にあった納屋の取り壊しを所有者の方が行ってくれたりと、不動産業者の方がより暮らしやすいよう交渉をしてくれたことも大きかったです。家を購入する気はありませんでしたが、今住んでいる家はとても安価だったので購入する決断ができました。

 

雲南市に暮らしてみた感想を教えてください。

時間の使い方が変わりました。東京では時間に追われ、人に合わせて時間を使っていた感覚がありましたが、今はゆっくり自分の時間を使うことができています。趣味のお風呂屋さん巡りをして、畑に出て土をいじって…人間としてあるべき「暮らす」ということを全うできているな、と。農業は東京でもやっていましたが、今のような規模や家の目の前に畑があるという環境を都会で求めるには難しいので、ありがたいです。
移住者同士のつながりは家族とも友達とも仕事仲間とも違うような、良い意味で不思議な関係です。そんな関係性が心地よくて緩やかにつながり続けています。地域にもうまく溶け込んで暮らせています。暮らしていく上で自分が1番優先していることは仕事だということも理解してくれていて、地域のイベントごとも仕事を配慮した声掛けをしてくれたりと、とても助かっています。

 

移住してみて困ったことはありませんか?

何事もポジティブに捉えることができるタイプなので、困ったことはありません!どうしても絞り出して挙げるとしたら、職場が松江市なので暮らしの基盤が松江市になっていることです。せっかく雲南市へ移住したのにもったいないと感じてしまいます。雲南市で暮らしていく中で、もっと雲南市に比重を置いた生活を送りたいと思うことが増えました。移住者の中には地域で頑張っている人が多く、その姿を見て刺激を受けています。今はなかなか時間が作れませんが、雲南市での暮らしの価値を広く届けたいと思っていて、今までの経験を活かして映像コンテンツ作りなどをやっていきたいな、というざっくりとした展望はあります。

 

これから地方へ移住を考えている方へメッセージをお願いします。

都市部で暮らす皆さんへ「本当に人間らしい生活をしていますか?」と問いたいです。時間に追われ、人の目を気にして、人に合わせて生きている人が多い中、本当に自分らしく人間らしく生きているか、自分自身に問い直してみてほしいです。都市部での暮らしを否定しているわけではないです。都市部はいかに効率的で、簡潔で、不便なく暮らせるということを追い求め、快適な暮らしを作り上げています。そんな暮らしを望む人の気持ちもわかりますし、僕もありがたみを感じてきた一方、都市部のような人に左右される暮らしより、地方で自然に左右される暮らしの方がより人間らしいのではないかと移住をしてから考えるようになりました。大げさな話になりますが、地球に生まれた価値をもっと肌で感じてみてもいいのでは、なんて僕は思います。



 
小谷祐介さん
2022年10月に東京都からIターン
〈2025年3月取材〉