三瓶浩己さん・裕美さんご夫妻
体づくりの仕事をする中で食に関心を持つようになり、そこからさらに農業や田舎暮らしに憧れるようになりました。そんな時に東日本大震災が起き、改めて生き方について真剣に考え、農ある暮らしを実現しようと、移住することを決めました。
  移住先を雲南市に決めたのは、当時地域おこし協力隊制度や緊急雇用対策制度での募集があり、夫婦2人とも仕事がある状態で移住できることになったからです。地域おこし協力隊の募集は他の自治体でもありましたが、雲南市について調べる中で、木次乳業があることがわかりました。有機農業に関心があったので、以前から木次乳業のことは知っていて、創業者の言葉や想いが心に響きました。また神話にも関心を持っていたので、ヤマタノオロチ神話の舞台の地で暮らすということにも興味をもって、雲南市への移住を決めました。農ある暮らしをすることが目的だったので、元々定住志向でしたが、ここに定住しようと決めたのは島根県内の自然農や有機農業を実践している方たちとのつながりができたことと、暮らしていきたい家と地域に出会えたことが大きいです。
   裕美さんー2011年の5月に移住を決めて、“自然農”をキーワードにインターネットを利用して検索をしていました。旅したことがある“奄美”も加えて検索していたら、たまたま島根に移住した方のブログにつながって、そこからふるさと島根定住財団の『くらしまねっと』を見て、地域コーディネーターの募集を見つけました。移住にあたって、地域の人とのつながり作りと当面の収入をどうするかが課題になっていたので興味を抱き、募集していた地域団体に問い合わせたところ、にほんばし島根館の移住コーディネーターの方につないでくださいました。東京で行われていたフェアでコーディネーターさんにお会いして相談したところ、地域おこし協力隊の制度と雲南市の募集について教えていただきました。募集内容に興味を感じたので、雲南市を訪問して見学し、面接を経て採用されました。
浩己さんー妻が雲南市を訪問した際、NPO法人の緊急雇用対策の話を聞き、翌週面接を受けに島根を訪れました。
  最初は地域おこし協力隊の担当地区ではないところに建つ旧教職員住宅に入居しましたが、地域の皆さんが「せっかくうちの地区に若いもんが来てくれたから、ここで暮らせるようにしよう」と、空き家となっている古民家で暮らせるように、段取りや改修をしてくれました。協力隊の任期がおわるまでは、その古民家に賃貸で住んでいました。2014年3月に協力隊の任期が終わり、定住して農のある暮らしや場づくりをしていきたいと考えた時に、インターネットでたまたま今の家に出会い、雲南市の制度を利用して農地付き空き家として購入しました。雲南市で3回も住居を移しているんですよ。
  人とのつながりに助けられ、豊かな自然や食材に恵まれて、したいと思っていた暮らしの形ができてきました。地域おこし協力隊の任期後、体と食と農がつながる、人の集まる場づくりをしたいと思い、自宅に『つちのと舎』の屋号をつけて、まずは島根県の田舎ツーリズムの民泊を始め、3年経ったところで改修工事をしてカフェも開業しました。それから1年経って、今はいろいろ落ち着いてきたように感じます。地域おこし協力隊の3年間は大変だったことやうまくいかないこともあったけど、その経験が学びとなり、今につながっていると思います。
  地域おこし協力隊の仕事内容のミスマッチで困ることはありました。任期後の暮らしの不安もありましたね。そうした経験から、地域おこし協力隊がつらい思いのまま地域から去っていく“ミスマッチ問題”を減らしていきたいと思い、地域おこし協力隊の研修をサポートするアドバイザーに着任し、現在は『しまね協力隊ネットワーク』を立ち上げ、島根県内の地域おこし協力隊の研修やサポートに取り組む他、総務省の地域おこし協力隊サポートデスクの専門相談員に着任しています。
  移住して6年、定住して3年の時に、ある程度貯金ができたので、カフェ営業もできるように家を改修することにしました。その時に市役所へ相談したところ、市と商工会による起業補助金について教えていただきました。手元にある資金での改修計画はDIYなどで時間をかけざるを得ない計画でしたが、補助金が加わったおかげでプロの力をたくさん借りて速やかに改修することができました。昨年オープンできたのは補助金のおかげです。
  古いものは壊され新しいものばかりを追うような街の中で生きてきましたが、山などずっと変わらない風景や季節の彩りの変化に安心感やときめきを得て暮らしていけることは本当にうれしいです。でも、移住してから落ち着くまでは大変なことがたくさんあると思います。なので、自分たちが何のために移住するのか、目的をはっきり持つことが大事だと思います。そして、自分の内面にある想いを大切にしつつ、新しい環境で自分が変化することも楽しんでもらえたらと思います。私たちは雲南で共に暮らしていく仲間が増えるようにと願い、応援しています。


 
<2018年10月取材>
三瓶浩己さん・裕美さん
2011年8月に東京都からIターン