やばい。ずっとバランスが取れていた均衡が崩れようとしている。
この時期はほとんど2人勝ち、いやほぼ1人勝ちやった気がする。
市内にフライドチキンを頼めるお店が無いおかげで、
私はクリスマスの食卓に並ぶ絶好の機会を得ていた。
店内に「予約受付中!!!」のオレンジっぽい紙がたくさん貼られだすと、
「あー、クリスマスやなぁ。忙しくなるなぁ。」
と胸が躍る。
そんな私の充実した日々が脅かされようとしている。
NO.1というものにこだわりがあるわけではないが、
一度築いた地位が崩れると思うと恐い。
臆病者を揶揄する“チキン野郎”とはうまいこと言ったものだ。
誰が考えたんやろ、あれ。
そんなことに想いを馳せている場合ではない。
ただ、今年のクリスマスはおそらく大丈夫ではないか。という話もある。
クリスマスにはオープンが間に合わない。ということらしい。
しかし外界のことは正味、私にはわからない。
いつもホットスナックが並ぶ温室育ちの私は、自動ドアの向こう側に見えるちょっとした外界の様子しか把握できないのだ。
じゃあどうやって外界の情報を得たかって?
それはお客からのリークだ。
田舎のコンビニはお客と店員のコミュニケーションが盛んだ。
ある日、お客が妙なことを言い始めた。
「そういえば向かいにセブンができるらしいねぇ。」
この一言を聞いて私の中に激震が走った。
「セ…セブンイレブンが…?市内に…?」
少なくとも雲南市が誕生して20年、まったく参入してこなかったセブンがなぜ今になって。
20年間、雲南チキン協会のトップを担ってきた身としてはソワソワするのは当然だ。
そもそもチキン協会に参入の申し出もなかった。これが大手のやり方か。
申し出は必須ではないが、地域でうまくやっていくためには地元の協会なりなんなりに下話をしておくのが通例だろう。
都会のチキンはやることが違う。
「そんなんで田舎でやっていけると思うなよ。」
と考えてしまう醜い自分も心の中に芽生え、余計に嫌な気持ちになる。
しかし起きてしまったことは仕方がない。
それよりもチキン協会に加盟している“会鳥”にこの情報を知らせなければならない。
皆さんも御存知だと思うが、チキンは独りでに動き出せない。
少し離れた場所にいるチキン協会の“会鳥”にどうやって伝えるのか。
その方法について思考を巡らせ、揚がってから4時間が経過した。
「ファミチキひとつ。」
恰幅な成人男性が店員に注文した。
私はこの瞬間閃いた。
食卓で別の“会鳥”と一緒になれば…!!
この雲南チキン協会を脅かす情報をどうにか伝えれるかもしれない…!!!
独りでに動けない私にはこれが唯一の希望の光に思えた。
私を取ってくれ。店員さん。その光輝くトングで、あのたくさん食べそうな成人男性の食卓へ…!!!
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私の願いは通じた。
悲願のレジ袋へインされ、成人男性の自宅へ向かう。
もう1人の“会鳥”の姿はない。
私の生涯はこれで終わりなのか。
結局、チキン協会のトップなんて名ばかり。
まったく協会のためになることをできなかった。
後の世代に託すしかない。
最後のドライブを見知らぬ男性と楽しむか…。と変なテンションになってきたとき、
車が止まった。
袋越しにはさすがにどこに止まったか見えない。
私を食すために停車したのか。
男性が車から降りる音がして、数分後に男性が戻ってきたとき、
私が入っているレジ袋に別の物体が入る感覚があった。
温かいものだ。
もしや…
この男性を選んで正解だったかもしれない。
ルッキズムが叫ばれる世の中、見た目で人を判断してはいけないが、
私の仮定は正しかった。
ただ、たくさん食べそう。
フライドチキンのハシゴをしそう。
そう仮定したのだ。
男性の自宅に到着した。
もしもレジ袋に入っているもうひとつの物体がチキン協会の“会鳥”であった場合、
皿に盛られなければ対面できないことになる。
しかし、ほとんどの人間は紙袋を破いて、チキンを直で食すと聞く。
「皿に盛られたらそれはもうパーティーの日。」という都市伝説があるほど。
成人男性の一人暮らしにパーティーが存在するのか。
そんな事実はどうでもいい。私は願う。今日は願いが叶う日な気がする。
ビリビリビリ…
私の紙袋が破られた。
夜の車内を走行していたからか、部屋の明かりが眩しい。
眉間にしわを寄せながらうっすらと目を開ける…
皿だ。
皿がある。
私は紙袋から勢いよく飛び出し、皿に盛られた。
さぁ、もう一つの物体はなんだ…。
見せてくれ…たのむ。
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「Lチキ!!!!」
きた。私の願いが。渇望が。叶った。
さぁ、皿に飛び込んで来い、Lチキよ。
さぁ!!!
勢いよく皿に飛び込んでくるLチキ。
「おおおお!!!Lチキじゃあないかぁ!!」
ここまでの流れを知らない初対面のLチキは気味の悪そうなリアクションだ。
「ああ…はじめましてファミチキさん、いつも協会関係のことでお世話になってますぅ…。」
「Lチキ!!私、あなたに伝えたいことがあってここまで来ました!!」
「はぁ…。」
「今度、雲南市内にセブンイレブンができるらしいんです!!揚げ鶏やななチキが参入してくるってことなんです!!
チキン協会のトップとしてはこれをお伝えしないまま生涯を終えるのは違うだろ!!と思いまして!!!」
「あぁ…。それなんですけど…うちのホットスナックのみんなも知ってるんですよ。」
「え…?」
「うちって…僕らLチキももちろんなんですけど唯一無二のからあげクンさんがいるじゃないですかぁ…。」
「からあげクンさんってやっぱうちでしか買えなくて、ホットスナックケースの中の空気もそこまで脅威じゃないかもね~みたいな感じで…。」
「え…?」
変な使命感でここまで来た自分を強く後悔している。
人知れず、油もギトギトである。
「あ…、あ、そうなんですね…、たしかにからあげクンさんってフライドチキンでもないし、からあげって感じでもないし唯一無二感ありますもんね~。」
「そうなんですよ…なんかすみません…。ここまで来るの大変でしたよね…。」
気を遣われている。
勝手な使命感に駆られてここまで来て、前のめりになりすぎていた。
うちだって他にもホットスナックはあるし、他のホットスナックの考えとかもちゃんと聞けばよかった。
思い立ったら即行動も考えものだ。
あーあ。
なーんかやっちゃったなぁ…。
男性がLチキからいくかファミチキから行くか迷っている。
私は覚悟を決め、そっと目を閉じた。
チキン野郎からの脱却だ。
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ここまでお読みいただきありがとうございました。
たにべえです。
『押しボタン式』に続き、今回は擬人化シリーズでした。
マジで市内にセブンイレブンができるとのことで、
すでにあるコンビニの中からファミチキさんとLチキさんにご出演いただきました。
ホットスナックのケースの中って結構ドラマがあって色々書けそうだな~って思っていたんですが、
なかなかホットスナックと雲南市ならではの関りしろが見いだせず、アイデアだけ頭にあった感じでして。
今回セブンができることになり、「セブンできるぞ!!」ってことをコラムでPRしよ~って思っていたところ、
我々市民は嬉しいかもしれないけど、それによって不安になってる立場の何かを擬人化してコラムを書こうと思い、
たどり着いたのがフライドチキンの擬人化でした。
結局最後は食されることに覚悟を決めて“チキン野郎”を脱却したチキン。
これを読み終えたあと、また最初から読んでもらえればループできるというコラムになっています。
クリスマスの季節なので、
クリスマスといえば!!というものをテーマにコラムを書きたいな~とも思っていました。
こういったタイミングが重なって今回のコラムが誕生してとても良かったなと思います。
ちなみになぜ今回はこんな解説パートがあるかというと
『押しボタン式』のときに
「○○の一文ってどういう意味ですか?何と掛かってますか?」
とか
一部の方から
「あんなん書いとる…心配…。」
というお声をいただいたからです。
コラムは変かもしれませんが、たにべえ自体はいたってノーマルな人間です…。
わかりやすく書いているつもりなのですが、
たまに混乱の声をいただきます。
たしかに、なんの経緯もわからずこんなコラムを読まされる読者のみなさんもいそう…。
そう思って解説パート書いてみました。
毎回、このパートが書けるかわかりませんが、書ける時はこんな感じで書いていこうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
からあげクンが唯一無二、というところだけは多くの共感を得たいということは申し添えておきます。
ちょっと早いけど、メリークリスマス。
すべてのチキンに乾杯。
あざした。
おわり
【ライター紹介】
たにべえ。元転勤族。
2019年広島から雲南に移住。
田舎って変だなぁと思ったことを文章にしています。