「イノシシがかかった!」
ある休日の朝、わたしの元に1本の電話がかかってきた。
同じ地域で狩猟を行う師匠から、イノシシがオリにかかったという報告だった。
急いでこれから行う“作業”に向けた準備を行う。
手袋、猟友会の帽子、猟友会のベスト、猟友会のバッジ、汚れてもいい服、長靴。
こうしてわたしは、3年ぶりの狩猟の現場へ向かったのだった。
どうやらわたしが一番乗りだった。
オリを覗いてみると、結構でかい。オスだろうか?獣臭もする。
捕まってから随分と動いたのであろう、オリに何度もぶつかった影響で鼻のあたりの皮が剥げていた。
師匠たちが到着した。
これから行う“作業”、すなわちイノシシを仕留めるため様々な道具を準備し、いざその時がやってきた。
その時、久しぶりに“ある感情”が心の中に湧き上がった。
言葉にするにはとても難しい、モヤモヤ、ゾワゾワするこの想い。
そう、これは雲南市に孫ターンして「狩猟をしないのか?」と聞かれた時に感じた“あの感情”と同じだ。
狩猟免許を取得しようと思ったきっかけは自分の農作物が鳥獣被害に遭ってしまったから。
雲南市では農業をしないから、はじめは狩猟をしない選択をした。
自分が害だと感じていないのに命を奪う必要はないと思った。
あの時の感情だ。
久しぶりに狩猟の現場に立ち合ったからなのか。
“あの感情”はとっくの昔に整理できたつもりだったのに。
複雑な感情を抱えたまま、仕留める作業を終えた。
その後、近所の人がやってきて「ようやくかかったわ!ずっとおぞくて(怖くて)やれんかった。がいな(大きな)イノシシだったわ。」と、どれだけ怖かったか、イノシシに長期間悩まされていたことを出雲弁で報告してきた。
そうだ、わたしが狩猟を続けている理由はこれだった。
地域の人の“農業”という生きがいを守るため。
地域の美しい景観を守るため。
地域の人の身の安全を守るため。
地域のために狩猟を続けているのだった。
久しぶりの現場で、地域が感じている鳥獣被害の実態をしっかり受け止めて、改めて自分はここで狩猟を続けていかなければ!と強く思った。
そして現場でしか感じられない感覚は必ずある。
できるだけたくさんの経験を積み、自分の中での揺るぎない想いみたいなものを築けていけたらいいな。
【ライター紹介】
りなぴ。うんなん暮らし推進課 定住企画員。
松江市出身、愛知県での修行を経て雲南市へ孫ターン。
148cmの身長からは想像できないが、狩猟免許を所持するハンター。