空き家を探す

2024年08月20日
たにべえ

TAISHOW


チェーン店が大好きだ。


地方都市育ちの元転勤族にとってチェーン店というのはどこに住んでも馴染みのある店だった。


小学三年生の調べ学習で『モスバーガー』のメニューについて調べて発表するくらいにはチェーン店が好きだ。


ジョブチューンというテレビ番組を見ていると、大手であればあるほどオペレーションに落とす難しさ、


原価との戦い、そういうめっちゃ大変な努力があってチェーン店のメニューの一つひとつが存在すると思うので泣けてくる。


そのくらいチェーン店が好きである。


チェーン店が好きな僕が雲南市に初めて来たとき、知っている看板は『大阪王将』と『しーじゃっく』のみだった。



小さなころから地元の個人商店に入るという習慣がない僕には、個人店に入るということ自体が勇気の必要な行為だったのだ。


そんな僕も6年田舎に住んでいると個人の経営する飲食店に入るのはお手の物。


今では市内でご飯を食べに行くお店は全部個人店である。


で、ここで問題なのが常連客感を出すかどうかである。


別になんのこともない話。


通ってれば店員とも世間話くらいするだろう。


でも僕はこの常連客な感じを出すくらいには通っているけど、


出したくない自分と常に戦っている。


だが、そんな僕が自分よりも常連であるだろう人に間違われたことが一度だけある。


こういうことは、きっと田舎に移住してから誰の身に起こるかわからない。


起こったときにどう対処するのかも、それぞれやと思う。


ただ、起こり得ることなんだと心の準備ができているのとできていないのでは全然ちゃうと思うので、


ここに書き記す。














僕は週2くらいで通っている、あるお店に入った。


週2通っていても「いつもの」という言葉は使ったことがないし、


大将に片手あげて「うぇい」みたいなんもやったことないし、


初見なんかと思わせるほどに毎回カウンターに座って大将の仕事っぷりを刮目していたし、


話しかけたことなど一度もない。


お店側も僕の常連客を出したくない雰囲気を感じ取っているのか、


はたまたモブ感が強いだけのなんの特徴もない僕のことを覚えてないだけなのかわからないが、話かけてくることは無かった。



しかし、その日は違った。


入店してカウンターに座るなり大将が笑顔で「今日は制服じゃないねぇ!」と言ってきた。


え…?僕の時が止まる。ザ・ワールド。

そもそも大将よ、間違え方が特殊や。「制服じゃないねぇ!」って。


そして僕が制服なるものを着てお店に訪れたことは一度もない。


齢32歳を高校生と間違えるわけもない。



近隣の事業所の作業着で来る常連客、と僕を間違えているのだろうか。


とりあえず「あははは…。」とだけ返す。時が動き出す。


もうこれ以上話かけんでほしい。絶対にボロがでる。


やめてくれ。強く望んだ。



と同時に、大将が間違えているであろう常連客を装うことが優しさやと思った僕は、


「いや…人違いじゃないですか?」とも言えずカウンターに座りいつもどおり大将の仕事を刮目する。


それから着丼まで大将が話かけてくることはなく、望みがどうにか叶ったのだが、


この後会計をして退店、という大きな世間話ポイントが待っている。


ここで込み入った話をされ、ボロが出てしまった結果「いや…多分人違いで…。」とか言おうもんなら大将が傷ついてしまう。



さらに僕が違う客だとバレれば「あ!あのとき間違えちゃったお客さん!」と認知されてしまう。


そんなことになれば、今後常連客感をお店側から出されてしまう危険性すらある。


誰も傷つかない方法は1つ。僕が常連客っぽく会計を済ましてさらっと帰ること。ただそれだけ。


でも全然、僕と間違われている誰かの人物像が見えてこない。普段制服を着て来店すること以外には何も見えていない。


情報量少なすぎるやろ、と思いつつイチかバチかやるしかない。


すっっっっっごい常連客感出すの嫌やけど、自分の中の最大現の常連客感を体現して退店に臨む。


まずはさらっと席を立ち、何も言わずレジまで行く。

僕だって週2で通う常連客なのだ。これくらいのこなれ感は出せる。


「ありがとうございますぅ~」


レジにかけてくるおばちゃんと会計を済ます。


お金を財布にしまい、カウンターの中をのぞくと満面の笑みの大将!!



大将に届け!!


渾身の!!



「……ごぉぉぉっちそうさんっ!!でしたっ!!」


「はい!ありがとう!!また!!」と大将が軽く手を挙げているのを周辺視野で取られながら僕はすでに店のドアを開けて退店していた。



世界で一番きもい「ごちそうさんでした。」やったのは言うまでもない。


なんで一回「さんっ!」で切ったんや。歯切れ悪い。


でも大将満面の笑みやったし、大将の心は守れた。絶対守れた。


同時に僕と間違われた誰かの名誉と、僕のちっぽけな常連客感を出されたくないというこだわりも守れた。


守ったものが多すぎる。でかした。



これでまたあの店に行ける。



生まれて初めて常連客感を出した瞬間だった。












数週間後、温泉に浸かっていたら大将が湯船に浸かってきた。




僕は何も言わず、大将と同じ湯船で肩を並べた。





大将、また行くので元気で店続けといてください。



※写真とコラムの内容には一切関係性はありません!!「あれってどこの店ー?」とか詮索するのはやめましょう(笑)。





おわり。

 
【ライター紹介】
たにべえ。元転勤族。
2019年広島から雲南に移住。
田舎って変だなぁと思ったことを主に書いています。