島根県雲南市に移住して1年が経つ。移住する前には、あれやこれやと理想ばかり溜まるもので、折角移住するならば、島根県の色んなところをまわってみたいと、旅の空想ばかりに花を咲かせた。しかし、そうもうまくいかぬが人生。なにせ島根県は思っている以上に大きく、また普段せわしなく生きていると、旅に出る機会をなかなかつかめぬまま1年が過ぎた。
しかし、この秋、いくつかの町に行くチャンスを得た。お隣の飯南町、離島の海士町、そして川本町と大田市だ。
▶お隣、飯南町へ
飯南町は、雲南市の西の隣に位置する。何もない日曜日、行ったことのない場所に行ってみようと、何も予定せず、ただ車を走らせた。ふと、飯南町が思いつく。お隣ながら時間を要するため、なかなか足が向かなかったが、良い機会だと向かってみることにした。目的地は道の駅とんばら。山道を抜け、道の駅に着く。地元で採れたものを使った、美味しいアイスクリーム屋さんが運転の疲れを癒してくれる。ヤギがのんびりと過ごす姿に、穏やかな気持ちを得ることができ、精神的な豊かさを感じる旅だった。
▶離島、海士町へ
海士町は隠岐諸島に位置する。松江・米子から船で数時間かけて海を渡る。天候にもよるが、フェリーはとても揺れるため、乗ったらすぐに眠りにつくのが島民の鉄則だそうだ。海士町は日本の離島山間地域の中でも数少ない人口増加している島。海士町をめがけて高校生や大人が島留学をする。いまや全国に広がる、学校・地域が協働する高校魅力化の走りとなった町でもある。
夜には、町の方との親睦の機会があった。一度町の存続が危ぶまれる状況を目の前に見たからこそ、町の方から感じるエネルギーは凄まじいものがあり、また対話の文化が根付く姿を目の当たりにした。
パワーあふれる姿だけでなく、島らしい穏やかな朝の海士町の姿に、静かに力を分けてもらった気がした。
▶三瓶の麓、川本町と大田市へ
仕事で川本町へ行く機会があった。島根県の中央部に位置し、川本町にある高校の名前も島根中央高等学校という。カヌー部や女子野球部は有名で、県外からの入学生も非常に多く、多様な生徒が集まる高校だ。川本町へは松江市からは2時間程度車を走らせることになる。町の中心を江の川という大きな川が流れ、自然豊かな町の姿に時間の流れもどこかゆるやかに感じる町だ。
川本町での仕事を終え、大田市を経由して帰路に就くも、日はとうに暮れ、暗くなっていた。仕事の疲れを癒すため、三瓶の麓の風呂へ向かうことにした。亀の湯の看板のあたたかな灯りが迎えてくれる。観光のために作られた温泉施設ではなく、町の日常に溶け込む共同浴場だ。
外からの客は明らかに自分だけ。先客のじいちゃんにここのルールを教わる。「そこの箱にお金入れといたらいいけん」「それ温泉だけん、蛇口のお湯も出しっぱなしでいいけん」そんな言葉をかけられる。たったそれだけ。でも、このコミュニケーションがなんだか嬉しくなるもので、町から歓迎されたような気持ちになれる。初めての場での緊張はほぐれ、ゆっくりと風呂につかることができた。身も心もあたたまり、雲南市へ帰るのであった。
雲南市は島根県の東部に位置するが、実は色んなところへ行きやすい。松江市と出雲市の間に位置するため、どちらにも出やすく、買い物なども不自由しない。米子も1時間で行けることもあり、出雲空港も米子空港も使いやすく、県外への旅にも出やすいのが嬉しい。尾道までの道路も整備がいきわたっており、広島県へも容易に行くことができるのだ。
折角移住したのだ。勿論、雲南市で過ごす時間も大切にしながら、近隣の町の表情もたくさん感じてみたいと思うのだった。
【ライター紹介】
ぽんぽこ仮面。京都府与謝野町出身、9年間東京で過ごした後に雲南市へ。
お風呂すき。サウナすき。キャンプすき。
毎日わくわくした大人でいたい教育業界の人。