空き家を探す

2023年05月21日
ぽんぽこ仮面

地域での栄誉を懸けた熱き戦い


ある早苗月の晴れた日の朝、ぽんぽこ仮面はグラウンドに立っていた。
主張の強い日照りの前に、すでに体力は限界。最早、水溶き片栗粉の如くとろとろと蕩けそうであった。
そんな、ぽんぽこ仮面の姿に目を留める者は当然居る訳もない。皆、勇ましく闘志に満ちた視線をグラウンドに向けていた。
 
今日は、地域のゲートボール大会なのだ。
 

疫病の蔓延により、開催が遠退いていた数年。満を持して、今年は開催される運びとなった。
待ちわびていた地域の戦士たちが、ギラギラとした視線を送り合う。皆、地域の仲間たちだ。
笑顔で会話をするが、目の奥にはアチアチの炎が燃え盛っていた。
マイスティックを持つ者、フォームをチェックする者、グラウンド状況に目を通す者。
数年ぶりの栄冠を目指して、皆準備に抜かりがない。
 
ぽんぽこ仮面はというと、選手として半ば強制的にエントリーが行われ、生涯初めてのゲートボールとなる。
還暦を迎えた頃、自分もやることになるのだろうか、そう幼き頃に思っていた。
30年も早くスティックを握ることになろうとは、恥をかかぬかと気が気ではなかった。
 
まずはリーグ戦が行われ、そこから4チームが決勝ラウンドへと進出する。
私の所属するチームは戦いの場には似つかわしくない、へらへらとしたチームだ。
照準は試合後の慰労会に合っている。私はチームに恵まれたようである。
 
さて、いよいよ開会宣言。コートに戦士たちが並ぶ。そこにあったのは、戦う戦士たちの強き背中であった。
 

―第1試合
ぽんぽこ仮面は見事なまでに、注目の的となった。
 
ゲートボールというのは、スティックで球を振りぬき、3つのゲートをくぐり、ゴール地点を目指すチームスポーツだ。
ここで注視すべきは、最初のゲートをくぐるまでは、本当の戦いの場に参加すらできないという、初心者に優しさの欠片もない競技という点である。
最初のゲートをくぐれるまでは、果てもなくそれを続けなければならない。
 
お察しの通り。ぽんぽこ仮面は、試合終了までずっとそれを続けた。
敵もへらへらした味方たちも、我先にと戦いの場へ進み、ぽんぽこ仮面を置いてけぼりにした。
何もせぬまま試合は終わり、私はスタート地点をあたため続けた。大恥である。
 
そして、我がチームは試合も大敗。言うまでもないであろう。
 
―第2試合
先ほどの二の舞にはならんと、奮闘した。
2番目のゲートをもくぐり、敵陣の球をコート外へ弾き出し、自らの存在意義を証明して見せた。初めての勝利をつかんだ。
相も変わらずへらへらしているチームだが、勝利は嬉しいものであったのか、「勝っちゃったよ」と、ニヤニヤしていた。
 
ここで驚きのニュースが舞い込むことになる。
リーグ戦の結果、得失点差なるものの影響により、あろうことか我がチームが決勝ラウンドに進出することとなった。
皆、麦酒を飲む時間が遠のいてしまったことに、少なからずガックシしながら、スティックを握りなおした。
 
 
―決勝トーナメント第1試合
当然ながら、ここには強き戦士が集まる。
そんな甘い気持ちではこの先の栄冠は掴めんよと言わんばかりに、相手チームの猛烈で強烈なプレー。
成す術もなく、完膚なきまでにコテンパンにされた。
別の競技をやっているのかと錯覚するほどであった。いや、最早別競技だったのかもしれない。
審判が得点計算ミスでもしてくれないかと期待したが、無論そんなこと起こる筈もなかった。
 
―決勝トーナメント3位決定戦
午刻を回った。
両陣営とも、強い日照りに体力と活力を奪われ、そして空腹にも襲われ、低空飛行な良き戦いを繰り広げることとなった。
あまり試合のことも覚えてすらいない。

結果、勝っていた。1点差で勝ちを得ていた。3位入賞である。
清々しい顔で、我がチームリーダーが表彰台にのぼった。その目は、この後の麦酒の味を見据えていたことだろう。

当日を迎えるまでは、いや、当日の朝を迎えてもなお、気乗りしなかったのがぽんぽこ仮面の本音である。
しかし、行ってみればオモチロイものだ。
じいさんたちのギラギラとした目と、笑い合う姿に、少しの生きる勇気と活力を分けてもらえた気がする。
来年も選手となることがあれば、私も少しは強き戦士として応戦したいものだ。
 

※注意※
現場は大変、和気藹々としております。偏った表現をしておりますが、皆さんとても優しく、初心者でも楽しめる場でした。





【ライター紹介】
ぽんぽこ仮面。京都府与謝野町出身、9年間東京で過ごした後に雲南市へ。
お風呂すき。サウナすき。キャンプすき。
毎日わくわくした大人でいたい教育業界の人。