空き家を探す

2023年09月01日
たにべえ

POLICE


チャイムが鳴った。

インターフォンのモニターを見ると警察官が立っていた。


移住して1ヶ月経ったころの話である。


ちなみに家に警察官が来たのはこの時が人生初めてで、何もしていないのに「終わった…。」みたいな感情になったのは言うまでもない。


「はーい。」と何にも悪いことをしていないのにおびえる僕。



玄関のドアを開けると警察官が立っていた。


後輩が警察官をしている。昔バイトをしていたドトールに後から入ってきたその後輩をよくかわいがっていた。

「彼女と海に行きたいけど車が無い。」という後輩のために、

バイト仲間で海に行くという企画をして、運転手まで務めてやったので、自分で言うのもなんだがとてもいい先輩だと思う。


後にその彼女とは別れ、今は何個か後の彼女と結婚して子どももいるらしい。


島根に移住しても連絡をくれる数少ない友達である。


目の前の本物か偽物かわからない警察官を前に、そいつのことを思い出していた。


「すみませんねぇ。巡回ということで家族構成なんかを教えてもらいたくて。」



え。


こわ。


急に。こわいて。


そもそもこの人、ほんまに警察官なん?


警察手帳とか見せられても、本物かどうかマジでわからんし。


『警察手帳の見分け方』という参考プリントを配布してほしい。


もしくは『警察手帳見分ける系YouTuber』にぜひ発信をお願いしたい。

でも、そのプリントや動画すらも悪い奴が作っていたら偽物に気付けないので、やっぱりわからんことに変わりはない。

後輩に警察手帳を写メって送りつけ、「これ本物?」と聞こうと思ったけれど、そんなことできる雰囲気でもない。

というか、むしろこっちが怪しまれる。


“巡回”という名のそれは、少なくとも僕の人生では初めての体験。


「人間は信じるな。」が家訓の家で育った僕からすれば、目の前の警察官が本物かどうか疑う以外に選択肢は無かった。


「えー…っと…なんでですかねぇ?」


おどおどする僕。

警棒とか持っているし、ジョブ的には物理タイプのイメージがない詐欺師だったとしても、油断はできない。


「災害の時とか、何かあったときに住民さんの情報を把握しておくためなんですよ~。」


僕の警戒心が伝わったのか、なるべくフランクなテンションで話かけてくる詐欺師。もとい警察官。


いやー怪しい。



限りなく怪しい。



確かに災害時とかに把握しておいた方がいいとは思う。

でもそんなふわっとした雰囲気で、個人情報晒せって、そんなことあるんかい。



いやー怪しいわ。



警察官のコスプレをしたただのおっさんかもしれない。



そうじゃない保証はないわけである。


「あー…えっと…、強制なんです…かねぇ?」


ビビりながら絞り出す。逆上して襲われては、たまったもんじゃない。


「強制ではないんですけれど…ご協力いただければ~。」


うーん。信じる根拠がない。


教えたくない。何に使われるかわからんし。


いつ、どこで、何に使われるかわからん。

十数年前、小学校時代の連絡網が高額で取引されているみたいな話も聞いたことがある。怖い。


まずもって先月移住したきた僕。あなたのこと、知らんし。


と、僕が渋っていると妻が玄関まで出てきた。


僕は助っ人参戦を機に

「いや~、なんか怪しいお巡りさんが~。」


と切り出そうとしたが、妻は即、家族構成と連絡先を答えた。





おいおいおいおいおいおいおぉぉぉい!!!





アホや。もう知らんで。

ここから恐怖の田舎暮らし始まるわ。電話が鳴りやまない、やばいやつらに地獄の果てまで追いかけられる。

アウトレイジよ。北野映画よ。


こんなお巡りコスプレおじさんに、まんまとハメられおったわ。


「どうもありがとうございました~!」


と元気に帰っていったおじさん。ほんまに、あの警察官。絶対偽物やろ。


僕がグチグチ言っていると「そんなわけない。」と一蹴する妻。


何でそんなこと言いきれるんやみたいなことをグチグチ言っていると、とうとう無視られた。


そもそも人間を信じすぎである。怪しい奴が家に来た経験がないのだろうか。

すぐにドアを開けるし。このご時世、隣人同士であろうとトラブルから事件に発展することだってある。


基本、誰も信じられんやろ。というのが、田舎暮らしをしたことのない人間の感覚な気がしている。




1年後、



娘が小学生になり、交通安全教室が開催された。

「今日さ、自転車教室あったんよ。それで警察の人来た。」


「マジか。なんて人やった?」


名前も覚えていないあのおじさんが本物だったか確認する術はなかったが、

一応聞いてみた。


「うーん、えっとねーお手紙に書いてあるわ。」


なんだと!?早く見せろ、あの時の俺の疑いが正しかったと、今ここで証明してやる。






学校のお便りには、お巡りコスプレおじさん、もとい「駐在さん」が写真とともに紹介されていた。














突然の来客者シリーズが続いていますが、本当に田舎暮らしをしたことがない僕からすると、

玄関のドアを開けるって相当ハードル高い行為でして。(本当に昔から、簡単に開けるなという教育を親から受けてきました。)


ましてや、悪いことしていないのに家に警察が来るとか、個人情報を教えろって何なん?という世界観です。


地元の人からすると当たり前の情報収集も、移住者からすると怪しすぎるやばい行為的な感じに見える可能性もあるので、

地元の人は特に配慮をされた方がいい気もする。いや、疑いすぎかもしれんけど。

でも見ず知らずの土地に移り住んだら、最初から信頼できる人はあんまりいないのがほとんどだと思うんで。


先日も地域の人からLINEで住所とか聞かれましたが、何に使うかとか、やっぱりちゃんと聞いてしまいます。

まぁそういう人もいるんで、教えてくれて当たり前みたいなスタンスも怖いな~っていう話です。


ちなみに今では駐在さんを見つけたら子どもと一緒に敬礼するような仲です。


でも、あの時は「ドンキ コスプレ 警察」とかで調べて似たようなやつ見つけて

「やっぱこれじゃね?」って妻に言ってうざがられていました。


駐在さん、あの時は疑ってごめん。




でも、





怪しかったよ、マジで。










おわり。



【ライター紹介】
たにべえ。平成生まれ平成育ち。
2019年春~広島→雲南。
お酒大好き。3児の父。週7バスケのバスケバカ。