空き家を探す

2023年04月20日
ぽんぽこ仮面

雨が降る夜にカエルの大合唱が聞こえてきて


―とある4月の夜。雨の降る夜。
 
仕事を終え、松江から40分かけて雲南へ帰る。
車のエンジンを切り、外に出た瞬間のこと。
 
耳に飛び込んでくるカエルの大合唱。
虫の鳴く声。
そして、雨が木々の葉を打つ音。
静けさの中、自然の音だけが響く夜。
 

ーーー
 
―とある冬の日のことを思い出す。
 
雲南は吹雪。
突風が声を荒げる。
凍てつく空気が顔と手を強く打つ。
 
ふと、風がやんだ時。
聞こえてくるのは、自分の足が雪を踏み鳴らす音。
穏やかではない、鳥の声が聞こえた。
自分と鳥だけの“生”を感じる瞬間、恐怖すら覚え、長く息を吐いた。
 

―吹雪が続く中、晴れ間が見えたある日。

鳥たちはどこか嬉しそうな声をあげ、
悠々と空を翔けていた。
雲はゆっくりゆっくりと流れる。
 
鳥と自分だけがこの世界に取り残されたのだろうか、
そう錯覚するくらい、周囲には何もない。
真っ白い世界に青い空。
風がやむと、こんなにも静かだったのか。
空の青が今にも頭の上に降ってきそうにも見え、
なんだか、走り出したくなるような気分になった。
 
ーーー
 
 
ーーー

―晩秋の朝。

久野から峠を超え、
大東の街へ下るいつもの通勤路。
ハッとする。
目が見開いた。

目の前に広がったのは、
雲海のような霧に包まれた大東の街。
峠の坂を下るたび、白い世界へ誘われ、
とうとうハスラーは雲海へ身を委ねる。

ここは白い世界。
外の世界では、日の光が主張を続けるが、
それも弱々しい。

ゆっくりと進む。
白の世界の出口はあるのだろうか。
そう思わせる。

いよいよ松江忌部へ抜け、
白い世界が終わりを告げる。
晴天の空に浮かぶ太陽は、
どこか生き生きとしているようだった。

自分の目は疲れを訴えるが、
心はどこか穏やかな気持ちで宍道湖の横を走った。

ーーー
 
―ある晴れた夏の日。初めて、雲南市大東町を訪れた日。
 
日の光が刺す。
東京のように日を遮るビルなんてひとつもない。
周囲に見えるのは、緑に染まった木々や山々。
 
東京からの来訪者を迎えたのは、
川のせせらぐ、穏やかな音。
合いの手を入れるように、木々が風に揺られ、爽やかな歓声をあげる。
 
この地に私は迎え入れてもらえるだろうか。
空に問うてみる。
もちろん、返事なんてない。
変わらぬ日の光、せせらぐ川、ゆらゆら踊る緑。
 
ポツリと立ち尽くした私には、沸々と笑いが込み上げた。
きっとヘンテコな顔で笑っていたことだろう。
 
---
 
 
カエルの合唱、虫の声、葉を打つ雨。
懐かしさが込み上げる。
この懐かしい気持ちはいつに起因するか。
自分に問う。
 
そう、それはもう10数年も前。
18年間過ごした京都府与謝野町では当たり前の音。
東京に10年近くいたら、忘れていた。
 
これがこの星本来の四季の音。
都会の喧騒も嫌いではないのだ。
しかし、雲南のこの音こそ、“生きている”ことを感じさせる。
人間のちっぽけさを思い返させる。
時に恐怖すら感じることもある。
しかし、これがまた、心地よかったりもするものなのだ。
 
五感で日本の四季を感じることができる日常を得た。
これだけで、ここに来た価値があろう。
大人になってから越境してみることも悪くないものだ。
 



【ライター紹介】
ぽんぽこ仮面。京都府与謝野町出身、9年間東京で過ごした後に雲南市へ。
お風呂すき。サウナすき。キャンプすき。
毎日わくわくした大人でいたい教育業界の人。