古谷雄平さん・日菜子さんご夫妻
移住を考えた一番の理由は、妻の強い希望でした。妻の地元が松江市だったので、知り合いの多い島根県で子育てがしたいと考えていました。両親など、頼れる存在が近くにいると安心するので。
  漠然と島根県に移住しようと考えていましたが、雲南市へ移住しようと決めたのは、広島市で行われた『しまねUIターンフェア』がきっかけです。雲南市のブースが一番移住者を迎え入れている気がして、しっかり話を聞いてみたいと思いました。ブースで話した定住企画員の雰囲気も良く、「雲南市に来てほしい!」という熱い思いが伝わってきました。他市町村のブースでも話を聞いてみましたが、自分たちは特に農業や古民家など、THE 田舎暮らしに興味を持っていたわけではなく、子育て環境を優先に考えていたので、トータルで考えたときに子育て支援の手厚い雲南市へ移住しようと考えました。妻の母も松江市から雲南市へ移住をしていたこともあり、頼れる存在が同じ市にいることも大きかったです。
  僕の場合はあまり多くの企業をさがすことはなかったです。業種の豊富さや給与面を考えた時に、松江市の企業で就職を考えていました。ふるさと島根定住財団が運営している『くらしまねっと』には登録していたので、企業からスカウトメールが届くこともありましたが、あまりピンとくる企業と出会うことができなかったです。
そのころ定住企画員に教育支援コーディネーターという職業を募集していると提案を受け、雲南市の教育委員会から詳しい話を聞いてみました。単純におもしろそうと感じたことも選んだ理由のひとつですが、一番魅力に感じた点は教育支援コーディネーターという仕事が地域に入り込んでいく仕事だということです。僕は完全なIターン者なので、移住当初は知り合いも頼れる人もおらず、孤独を感じるだろうと不安に思っていたので、仕事をしながら地域の人たちとつながるということが大きな決め手となりました。実際約1年働いてみてたくさんの人とつながりができ、今もつながり続けています。仕事でつながったとはいえ、プライベートで会うことも多くなりました。この仕事をして友達の幅が広がり、友達ができるペースも早くなりました。出会いに溢れた仕事です。
  最初は公営住宅で考えていました。家庭菜園や古民家に憧れを持っていなかったので、最初から公営住宅で、と絞って探すことができました。地図を駆使して、住宅と学校の距離や生活環境などを念入りに調べました。当初考えていた公営住宅の入居が難しく、空き家バンクなども検討していた時に、不動産サイトで今の家を見つけました。最初考えていた希望とは違う民間賃貸で一軒家の物件ですが、3人目が生まれたことにより、階段しかない公営住宅は難しいなど、住まいに対する条件もちょうど変わってきたところだったので、いいタイミングでいい物件と出会えました。民間賃貸の物件なので、周りの環境の草取りなどは管理業者が行ってくれるので助かります。
  日菜子さんー両親や友達など、会いたいと思っていた人たちにすぐ会える環境になったことはうれしいです。周りのサポートがあるからか、おだやかな気持ちでいれる時間が増えました。ほかにも、一度しか会ったことのない人に野菜をもらうことや、子どもを連れて外を歩いているだけで声をかけてもらえるなど、人とのかかわりの深さは感じるようになりました。
雄平さんー人とのつながりは濃くなりました。特に実感するのは、広島に住んでいる時より同世代の友達が増えたことです。若者も広島のほうが断然多いはずなのに、雲南市のほうが若者と出会う機会が多いです。あとは、田舎なのにインターネットなどの生活インフラが整っていることは驚きました。子育て世帯として助かることは、病院にしても飲食店にしても並ぶことが少ないことや、どこに行っても広々とした駐車場があることですね。
  広島と比べて考えると、買い物は不便になりました。インターネットをうまく活用すれば暮らしていけますが、送料などのコスト面や配達までの時間などを考えると不便さを感じます。
雲南市内の飲食店にはドライブスルーができるお店がないので、子ども連れでも絶対に店舗に入らないといけないし、気兼ねなく子どもを連れていける店舗も少ないです。
自治会での移住者としての立ち回りも難しいです。自治会内で集金されるお金の中には強制ではなく気持ちにゆだねられるお金もあり、まだ住んで1年も経っていない自分たちがどこまで払うべきなのか?と考えてしまうことはあります。生活費がこれくらいかかると計算していたこと以上に、目に見えない気持ちのお金も発生していくことがわかりました。
  子育てするにも、周りの協力を感じられます。病院に読み聞かせを行う人が常駐していたり、図書館では赤ちゃんと一緒に楽しめるイベントがあったり、自転車の練習を家の前で車を気にせずできたり…。子どもたちがのびのびと生活していることを実感します。規模の小さいこども園に通っているので、1人ひとりを見守ってくれているし、個性を大切にしてくれていると感じます。
ただ、子どもが小・中学校と進学していく中で自分から何かやりたいと思い始めたとき、小規模な学校だと少し不自由を感じるかな、とは思っています。習い事やクラブを始めたいと思っても、今の住まいに住所がある限りはできる習い事やクラブが限られてしまいます。移住者が住み続けるためには、教育面の柔軟さも必要だと思います。
  日菜子さんー移住する前はやらないといけないこと、乗り越えないといけないことが明確なので、前向きに、ワクワクするような気持ちでことが進められますが、本当にしんどくなるのは移住したあとです。自分がやるべきことを自分で見つけないといけないので、できたつながりからいろいろと探しています。最近は自分にしかできないこともやってみたいな…と考えたりすることもあります。移住がゴールではなく、むしろやっとスタートラインに立てた感じです。
雄平さんー田舎=スローライフではないと、まず伝えたいです。土日も仕事や自治会、保護者の集まりなどでどんどん予定が埋まっていき、割と忙しい毎日を送っています。ゆっくり暮らしたいと思っている人には田舎は合わないかもしれないと、暮らしていて感じます。都会のほうが他人に干渉しないので、人との関係で深く考えることや苦しむことが少ないと思います。田舎は良くも悪くも人との距離が近いので、人との関係や生き方の面で考えることが多いです。でも僕はそんな生活を楽しんでいます。人との距離が近いからこその学びを感じています。ふわっとではなく、地域に根差して生活する楽しさを、今は強く感じながら生きています。


 
古谷雄平さん・日菜子さん
2019年3月に広島県からIターン
<2020年1月取材>